家に仏壇が2つある理由

職場の上司Kさんは10年前に一戸建てを購入し奥さんと2人で暮らしています。Kさんには入社以来、一番世話になっており大好きな先輩です。これまで何度かお宅にもおじゃまして、奥さんの手料理をごちそおうになったりしています。
Kさんの家はちょっと変わった造りになっていて、フローリングのリビングのとなりに四畳半の和室があって、リビングとの境は障子戸。いつもその戸が開けられていて、リビングから畳が見えるのです。
家を建てるとき、Kさんが一番こだわったところだそうで、どうしても和室がほしい。
それも独立したものではなく、リビングと一体になった感じにしたい。
という注文をして、そういう造りになったのだということです。
実際に、リビングにいると、畳の間が自然に目に入って、それがなんとも落ち着いた気分にさせてくれます。これがKさんのねらいだったわけです。
去年のちょうど今頃、ひさしぶりにKさん宅におじゃましたときのことです。
いつものようにリビングのソファでKさん夫妻とお茶しながら、ふと和室のほうを見ますと、見慣れないものが目に入りました。
高さ40センチくらいの木の箱のようなものが二つ、左側の壁ぎわに並んでいるのです。
うちにも似たようなものがありますので、ピンときました。仏壇にちがいありません。前におじゃましたときにはなかったものです。
「あれ、仏壇ですよね。どうされたんですか」と聞くと、Kさんはいきさつを話してくれました。
ことの発端は、犬。Kさん夫婦は大の犬好き。
前のマンションでは飼うことができなかったので、戸建てに移ったらぜひ飼いたいと前々から話していたそうです。
「うちはこどもがいないから、その代わりって気持ちもあってね」とKさんは言います。
犬種も柴犬と決めていました。
引っ越してすぐに飼いはじめた柴犬。私も何度も会っています。
人懐っこくて、きょとんと首をかしげる表情が素朴でかわいい犬でした。
ところがその犬が、おととし病死してしまったのです。8歳でした。まだまだ「男盛り」だったとKさんは嘆いていました。
夫婦でまさに「こどもように」かわいがっていた愛犬の死。
最近「ペットレス症候群」という話をよく聞きますが、Kさんの奥さんがそうでした。それを心配してKさんが、「きちんと祀って、供養してやろう」と、まず位牌を作ったのだそうです。
最初は位牌だけを寝室に置いておいたのですが、そのうち「やっぱり仏壇に収めたほうがいいという話に、夫婦でなりました。
仏壇を買うという段になって、ふと考えたのは、「犬の供養ばかりして先祖はしないというのは変だ」といいうことでした。Kさん夫婦のご両親は皆ご健在ですが、将来のことを考えれば、いまのうちから仏壇を持っておくのもいいだろう、という話になったのです。
和室に仏壇が2つ並んでいる理由は、つまりそういうことでした。話を聞いて、私もお参りさせてもらいました。
2つは大きさはほとんど同じですが、ワンちゃん用のほうは、黒っぽい色でごくシンプル、ちょっとモダンな感じのするデザインなのに対し、もう一つのほうは、派手ではありませんが、少し金の装飾が施された立派なデザインになっています。
Kさんは笑って言いました。「
最初はおそろいにしようかとも思ったんっだけど、それはいくらなんでも先祖に失礼だろう、って話になって、少しこっちをグレードアップしたんだよ。これならまあ、じいさんたちも納得してくれると思ってね」
Kさんらしいな、と思いました。お参りして、すがすがしい気分になりました。